永田町は大阪・橋下の揺さぶりに耐えられるか(その2)=橋本五郎/後藤謙次/長谷川幸
2012年1月27日 中央公論
■■責任逃れの自民、個人プレーの民主橋本 それにしても、自民党はチャンスでもあるのに、野党の気楽さなのか、政権を攻撃するだけで、「わが党はこうする」という覚悟が見えない。
長谷川 実は、自民党議員は密かに思ってるんですね。「TPPや消費税のような重い荷物はいまの政権に担ってもらえばいいんだ」「その結果、選挙で負けてもらえばいいんだ」と。しかし、それでは野党の責任はどこにいったのかという話になりかねない。
橋本 だから、「野党自民党」に対する信頼が深まらない。
後藤 自民は「与党経験のある野党」にならなければいけないのに「野党経験のない野党」になっちゃった。(笑)
橋本 大震災の時にまっ先に政権に協力する体制を期限付きで明確にすべきでした。「さすがに五四年も政権を担ってきた政党だ」と思わせることはできたはずです。そして次なる段階では「TPP参加と消費税増税は日本にとって必要なことなのだ」と、苦しくても言う。そういう姿勢を貫けば、政権奪取はそんなにやっかいではないでしょう。
長谷川 野党だからこそ、個別政策に賛成・反対の姿勢をしっかり出すべきだと思うんですけど、実態は逆で、むしろ民主党より追い込まれている感じがします。仮に年内に解散があっても、TPPについて方針が決まらないまま総選挙に突入するかもしれない。消費税だって、増税に賛成ならば野田さんに協力すればいいじゃないかというのが、国民の素直な疑問だと思いますよ。僕は増税に反対ですけど。
後藤 「増税はマニフェストに書いてない」とか、変な手続き論に行ってますからね。
長谷川 ずばり言えば、政策の旗を鮮明に掲げられない自民党はとっくに終わっている感じがします。
後藤 ただ、党内がねじれているのは民主党も同じことで、衆参ねじれと党内ねじれが「同居」しているのが、この間の日本政治なんですね。本当なら、次の選挙でそれらをダブルで解消する必要があるのですが、現状ではその展望は見えてきません。
橋本 民主党も問題ありです。最悪なのは、はっきり言って議員が自分のことばかり考えているところです。政権与党なのだから、その責任をみんなが共有しなければいけないのに、自らの利益を優先する姿勢が露骨すぎる。ある首長出身の議員が言っていたのですが、「民主党議員の一番の問題は人間に対する関心がまったくない」のだと(笑)。「議員に就職した」という感覚なんでしょうね。
後藤 いきなり名簿に名前が載った人には、「愛社精神」も醸成されてない。
長谷川 議員バッジを着けることが最優先になっている人が多い。それで「またバッジを着けるためには、どうするのが得策か」という発想になります。そういう人たちが「箱」を捨てることによって民主党が分裂するのは、意外に早いのかもしれません。
橋本 ちなみに、そうやって政局含みになると、またぞろ「小沢一郎」の名前が取り沙汰されるようになるんですね。姿が見えないなら見えないなりに、何か考えているはずだと憶測が飛ぶ。ただ私は、そんなことばかり考えていると、本筋を見誤ると思うのですよ。
後藤 小沢さんの言動から推し量ると、「何かをしたい」ではなく「何をしてほしくない」か、すなわちとにかく解散回避がプライオリティの圧倒的な第一位であるように思えますね。もし今年中に解散となると、党員資格停止処分中かつ刑事被告人として総選挙を迎えざるをえなくなります。それは政治生命の終焉を意味します。とにかく解散を先送りして、どこかで総理の首を挿げ替えて地合いを変えたいという程度のことは、考えているのかもしれません。
橋本 小沢さんが師と仰ぐ田中角栄さんは、ロッキード事件の時、一審判決前に解散させようとした。結果、自身は大量得票しました。後藤さんの見立てが正しいとすると、あらためて政治家としての違いを実感せざるをえないですね。
■■大阪「橋下改革」は政界再編の起爆剤となるか
長谷川 今、与野党に突きつけられている大きな政治課題は、お話ししてきたようにTPPと消費税。ただ私は、地方自治法改正問題が「第三の課題」としてクローズアップされてきたと思うのです。今度の通常国会では、みんなの党が橋下徹大阪市長と連携して改正案を出してきます。そうなれば、実は民主も自民も他の政党も、「大阪都構想」に賛成なのか反対なのか「踏み絵」を踏まされることになる。しかし、この問題についても、どう決断するのか各党の議論はまだ聞こえてこないですね。
橋本 橋下市長があれだけの共感を呼んだのは、どう考えても非効率であるにもかかわらず温存されてきた、府と市の二重行政を「おかしい」と確信を持って訴えたからだと思うのです。個人的にはなんで「都」にするのか、東京とは違う大阪らしい形にすればいいではないかと思うのだけど、いずれにせよ二重行政がさまざまな問題を孕んでいるのは事実です。民主も自民も、あの大阪の選挙で示された世論には、真摯に耳を傾けるべきですよ。
長谷川 それから、「大阪都構想」ばかりが注目されていますが、私が革命的だと思うのは、職員基本条例案なんです。たとえば大阪市には七二の外郭団体がありますが、ここには公務員の天下りをさせない。怪しいと思ったら「市長が天下り人事を認めない」とも書いてあるのです。大阪市と堺市の市議会では否決されましたが、府議会は(大阪)維新の会が過半数を取っていますから、通るでしょう。大阪ローカルの話ですが、中央の国家公務員制度改革などに影響を与えることは十分ありうる。橋下さんの動きは、永田町を揺るがす時限爆弾のような位置づけになってくるかもしれません。
後藤 今、いろんな意味で一番の政治家は橋下徹かなと感じます。かつて亀井静香さんが「千手観音」と称されましたけど、橋下さんくらいいろんな手を出してる政治家は見当たらない。たとえば小沢さんたちが消費税増税反対を切り口にアプローチしたら、ぜんぜん違う「地方自治のあり方」というボールを投げる。あたかも、そうやすやすとそちらの戦略には乗らないよという態度を示しながら、一方では味方を増やしていくんですね。なかなかの手だれだと思いますよ。
長谷川 小沢さんは「改革には賛成だ」と、盛んに秋波を送っていますけどね。
後藤 小沢さんの地方自治は、三〇〇の基礎自治体を基本にした国づくりですから、橋下構想とは根本的に違います。
長谷川 橋下さんは道州制を志向しているようにも見えますね。
橋本 考え方が一番近いのは、みんなの党です。橋下さんの選挙も全面的に応援した。でも、彼がみんなの党と心中する気は、おそらくないでしょう。これから民主も自民も、維新の会に対する対応が変わってくるはず。実際大阪に対しては、双方とも地下で相当、接触を図っている。
長谷川 維新の会とみんなの党は、堺屋太一さんとか古賀茂明さんとか、ブレーンがかぶってますからね。でも、橋下さんはなかなかの政治家だから、政策がいっしょだからといって、直ちにみんなの党と行動を共にするということにはならないかもしれない。
橋本 橋下さんが当選した時、渡辺喜美さんを万歳した「輪」の中に入れませんでした。全面支援した一党の党首をあえて遮断するのだから、相当な考えがあってのこと。彼のターゲットは、みんなの党ではなくて、民主であり自民なんですよ。そのあたりは、実にしたたかです。
長谷川 ただ、両党ともさきほどから話に出ているように、基本政策が見事に党内でねじれている。僕は、橋下をにらんでねじれがさらにひどくなる、はっきり言うと分裂する方向に進んでいくのではないかと思います。
(その3)へ続く
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。
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