永田町は大阪・橋下の揺さぶりに耐えられるか(その1)=橋本五郎/後藤謙次/長谷川幸
2012年1月27日 中央公論
■■滞貨だけがたまっていく橋本 北朝鮮最高指導者の金正日総書記が死去しました。危機が深まるのか、それとも融和の方向に向かうのか予断を許しません。それでなくとも今年二〇一二年は米国をはじめロシア、中国、フランスなど各国で国の指導者が代わる、ないしその可能性がある節目の年です。そうした中で日本はどうなるのか、昨年末の世論調査で野田政権の支持率がまた大幅に下落しました。就任半年を待たずして早くも足元が揺らいでいます。
後藤 この政権は学習効果ゼロと言わざるをえません。またも参院の「問責決議候補」を、二人も抱えることになってしまった。今の輿石幹事長流でいくと、参院の問責で閣僚の首を切るような悪弊には見切りをつけようと、このまま突っ走るかもしれませんが。
長谷川 辞めさせず、内閣改造もなしで、一月からの通常国会に臨むと。
後藤 加藤紘一さんの言葉を借りれば、鳩山さん、菅さんは曲がりなりにも何かをやろうとして失敗した。野田さんは何もやらないからもっている。ただその結果、滞貨が背中の籠にどんどんたまって、身動きが取れなくなっているのでは、という印象です。
橋本 でも座していることは許されないでしょう。野田内閣の当初の高支持率は、今度の総理は謙虚さを持ち合わせているようだという部分が評価された結果でした。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)も、一日延ばして反対派に肩透かしを食わせ、同時に「参加」ではなく「事前協議」なのだと表明したやり方は、私は間違っていなかったと思うのです。
ところが、おっしゃるようにそこから積極的に打って出るという姿勢がまったく見えないから、支持率が戻らないわけですよ。リーダーシップがあるのかないのかの試金石が今の二つの問題で、不問に付して乗りきるというのは無理だと思いますね。
後藤 自民党も強硬ですからね。
橋本 与党の時には問責はおかしいと言いながら、野党になると乱発する。こういう「二枚舌」は問題だけど、現実問題としては、選挙を睨んで押してくるでしょう。かつ、あえて言えば、前政権で問責が取り沙汰された仙谷さんなどに比べ、今回は問題の質が悪い。閣僚として明らかに不適格だと思う。
後藤 TPP協議への参加表明を一日延ばした件については、橋本さんとちょっと見方が違って、あれで覚悟のなさのようなものをさらけ出してしまったと感じるのです。予定通り結論を出そうとしたら党内に不穏な空気も漂っているし、とりあえず延ばそうというバタバタ感が否めなかった。
長谷川 TPPに関しては、今年半ばくらいまでには大枠のめどを立てたいというのが米国の方針です。三月ぐらいには日本の参加を認めるか否か方向を出してくるはず。議会では「反対論」もちらほら出ています。
橋本 「TPPは、米国に参加を迫られている」という論調が盛んですが、実は「参加するならする、しないならしないと、はっきり態度を決めてくれ」ということなんですね。米国ウンヌンはとりあえずおいて、日本としてどうするんだという議論を本格的に深める必要があると痛感します。
■■増税論に水を差す「第三次石油ショック」
長谷川 TPPと並ぶ喫緊の政治課題が、消費税の引き上げです。お話のような状況で、はたして具体的な案をまとめることができるのか。ポイントは明確で「二〇一五年」「一〇%」という時期と上げ幅を入れられるかどうかです。これが入らなければ、野田さんとしては失敗ということになる。
後藤 今の「素案」という用語自体、谷垣さんとの党首討論の中で唐突に出てきたんですね。
長谷川 税制改正は、普通は「大綱」。
後藤 ある自民党の幹部の話によると、自民が国会に提出した「財政健全化責任法案」に「素案」という文言がある。彼は、「谷垣さんはなぜ党首討論で、パクリだと切り返さなかったのか」と、憤ってました。
長谷川 三月末までに増税法案の可決成立を目指すというスケジュールですが、結論から言えば、僕は非常にハードルが高いと思っています。党内の反対派がかなり勢いづいていることに加え、景気の動向が不透明になっているからです。
危機が深刻化しているEUは、昨年十二月に首脳会議を開きましたが、危機の克服にはいかにも力不足でした。にもかかわらず金融市場がそんなに荒れなかったのは、実はトレーダーたちのボーナスが確定していたからなんですよ。十二月は、彼らにとっては「クリスマス休暇」。ちょうど国会が開く前後には、彼らが「再稼働」しますから、株価が大きく下がる可能性があります。そうなると「こんな時に増税か」という意見が、与野党双方からさらに強まるのは避けられないでしょう。
橋本 ただ、消費税については、誰が考えても上げなかったら国が立ち行かないわけです。それをどうやって国民に納得してもらうかというところに、結局は帰着するのです。要は、総理に何が何でもやるという覚悟があるのかどうか。野田さんが財務大臣時代に、よく「菅さんに欠けるのは、覚悟と手立てだ」と言っていました。現状ではそれがそのままご自身にも当てはまる(笑)。「手立て」が見えないから、「覚悟」も見えにくいんですね。
長谷川 やはり一番問題なのは「政治家の言葉」ですよ。TPPについても、なぜ必要なのかを総理が自分の言葉でしゃべったとは言い難い。消費税も、やっぱりしゃべらないのではないかという気がしてなりません。
後藤 今の消費税だって、一九七九年の国会決議の後、「土光臨調」を経て、導入は十年後ですからね。今回は、昨年末におっとり刀で党内に「行政改革調査会」をつくりましたけど……。
長谷川 あれもひどい泥縄ですよね。
後藤 国家公務員の給与引き下げができなかったとか、行革が進んでないとか指摘されて、もう本格論議を始める時期なのに、ようやく前段の形だけ整えた。
八二年に、国家公務員給与引き上げの人事院勧告を見送った際には、当時の宮沢喜一官房長官が、鈴木善幸総理の非常事態宣言を読み上げました。財政難がそれほど深刻なのだということを、懸命にアピールした。そういう「重さ」が感じられないわけです。
橋本 そもそも公務員を叩く前に、まずわが身から切らないと。そうしなかったら、国民の理解も広がりませんよ。民主党はマニフェストで国会議員を衆院で八〇人、参院で四〇人減らすと書いてるでしょう。野党との調整がうまくいかないというのならば、民主党単独でもやって姿勢を示すべきです。衆院は確実に通るのだから。
長谷川 さきほどの景気の話に付け加えると、EU危機に続いて深刻になる可能性があるのは、実は石油の問題です。つまり中東に広がった民主化運動、「アラブの春」がサウジアラビアやクウェートに波及しないか。サウジアラビアは支配層の王侯貴族の多くが八十歳を超えていて、統治能力に不安がある。もしサウジやクウェートの足元に火がついて、産油国が不安定になると「第三次オイルショック」が襲来するという指摘もあります。
日本は金融以上に石油がアキレス腱になるかもしれない。今年はいつ襲うか分からない金融+オイルの世界経済不安を、強く意識せざるをえない一年になりそうです。
(その2)へ続く
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。
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