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民主党の「農協潰し」が加速する

2009年10月26日 フォーサイト
自民党にも農水省にも見捨てられた農協(JA)。だが、来夏の参院選を見据える小沢氏は容赦しないだろう。
 鳩山内閣の発足から一夜が明けた九月十七日の朝、全国農業協同組合中央会(全中)や全国農業協同組合連合会(全農)などJAグループの中枢幹部数人が、新政権との対応について協議した。全中の冨士重夫専務理事ら参加した面々は、そろって棒を飲んだように押し黙り、暗い表情だったという。
 無理もない。先の総選挙で、JAグループの政治団体である全国農業者農政運動組織連盟(全国農政連)の推薦候補二百八十一人のうち、当選したのは百十二人。当選率は四割に満たない。一九九三年までの中選挙区時代は「農政連が推薦した時点で当選確実」と言われるほどの集票力があり、候補者の間で推薦獲得競争が繰り広げられていたものだ。
 それも今は昔。今回の総選挙では自民党農林族の落選が相次ぎ、大臣や副大臣、農林部会長経験者など農林族幹部は壊滅状態となった。なかでも長野、静岡、滋賀、沖縄県は、まさかの「全敗」。いずれも農業の盛んな地域であり、長野県は全中の茂木守会長のお膝元でもある。
 鳩山政権の農林水産相には、農政そのものと縁が薄い赤松広隆・民主党選挙対策委員長(当時)が起用された。十七日未明の就任記者会見では「農業者戸別所得補償制度は二〇一一年度から実施する。そのためには一〇年度から制度を設計する」「もちろん減反政策は見直す。農家はより効率的な在り方に変わらなければならない」と言い切った。
 JAグループと二人三脚を組んできたはずの農水省も、あっさりと民主党の軍門に降った。
 赤松氏は初登庁の出迎えを拒否、井出道雄事務次官ら幹部との初顔合わせで「けじめをつけずに、はい、あなたが次官ですかとはいかない。けじめがつかないのであれば、お辞め頂くことになるかも知れない」と恫喝し、震え上がった井出氏は「献身的に徹底的に新大臣を支えたい」と全面降伏したのだ。
 その後もJAグループの悪夢は続く。副大臣に起用されたのは、利害関係でJAと足並みがそろいやすい北海道の農家を支持基盤とする鉢呂吉雄・前「次の内閣」外相や小平忠正・民主党常任幹事らではなく、小沢グループの重鎮である山田正彦・元「次の内閣」農水相だ。
 一方、官邸は、佐野忠克・元経済産業審議官が事実上首席である政務秘書官に起用されるなど、経済産業省系の人材でがっちり固められ、FTA(自由貿易協定)やWTO(世界貿易機関)の農業交渉の積極推進は避けがたい布陣だ。
 加えて、JAグループ幹部を決定的に打ちのめしたのは、石破茂・前農水相の置き土産だった。昨年末に減反見直し論を提起したものの、JAグループと自民党農林族の猛反発を受け、総選挙前に封印を余儀なくされた石破氏は、退任直前の九月十五日になって減反を継続・廃止した場合の米価や財政コストを試算した「第二次シミュレーション」を唐突に発表し、「減反選択制移行」への道筋をつけた。
 減反維持を唱え、自民党と二人三脚でその具体策(水田フル活用策)をまとめたJAにとっては「裏切り」(全中の中堅幹部)であり、「自民党が政権を奪還しても、減反見直しの流れは止めようがなくなった」(同)。
 ともに「鉄のトライアングル」を組んできた農水省にも自民党にも見捨てられたJAは、総選挙の「最大の敗北者」といえる。

「第二農協」という仕掛け

「トライアングル」の分断に向け、第一手を打った民主党は、今後どのような農政を展開するのだろうか。
 一般的には「農業者戸別所得補償」の制度化が第一の課題だとみられている。しかし、「来年夏の参議院選挙まで」と期間を限った場合、小沢一郎幹事長の心中を推し量れば、最優先課題は農協改革、言い換えれば「JA潰し」だと思われる。
 総選挙前に、民主党マニフェストの原案に書かれていた「日米FTAを締結」に難癖をつけ、「締結」を「交渉を促進」に修正するよう迫ったJAグループに対して、小沢氏は「本気で怒っている」(側近)という。
 選挙期間中の八月二十五日、FTA「締結」問題について聞かれ、「農協も、東京の機構は官僚化している。既得権益を守る観点から発言している。相手にする必要はない」と怒りを隠さなかった。
 そもそも、マニフェストの原型となった「民主党政策集・INDEX二〇〇九」(通称・インデックス)には「農協等の改革」があり、「農協等の政治的中立を確保するほか、新たな農協組織等が活発に設立されるよう、条件整備を図る」と書かれていた。
 この項目がマニフェストから削除されたのは、「JAを不必要に刺激すれば総選挙で不利になるから」(北海道選出の民主党衆議院議員)にすぎない。民主党の本音は「インデックス」にある。
 農協を相手にせず、農家と直接手を結ぶ。それが小沢氏の真意だ。
 そのためのツールもすでに整備されている。六月二十五日に設立された「食と農の再生会議」。衆議院の議員会館で開かれた初会合には元農協組合長ら約九十人が参加、運営委員に白川祥二・北海道農民連盟書記長ら十三人が選出された。総選挙後の九月十三日には山形市で第二回が開かれ、地方組織が設立された。今後各地で開催し、地方組織を充実させていく方針だ。
 この地方組織は、民主党の農政の伝達・普及機関になるとともに、選挙では民主党の手足となって動くだろう。最初の地方組織を自民党農林族として生き残った加藤紘一・元自民党幹事長の足下に設置したあたりに、したたかな戦略性を感じる。
 ある農水事務次官OBは「再生会議は事実上の『第二農協』に育つ可能性もある」と予測する。これまでのJAは事実上、地域独占だったが、これからは「JAの『J』は自民党の『J』か」と問われるほど自民党ベッタリだったJAと、親・民主党の「第二農協(再生会議)」が競合するとの見立てだ。
 これを実現させる上で民主党が使うのは、農協法の改正や、独占禁止法の運用強化という王道か、はたまた農協監査の強化などの搦め手か。いずれにせよ、参院選での勝利を目指す小沢氏はJAの徹底的な弱体化を図るに違いない。

あくまで「参院選」を優先

「戸別所得補償」よりJA潰しが優先されると予想する、もう一つの理由は「時間軸」だ。
 戸別所得補償は二〇一一年度からの実施であり、少なくとも一年間はモデル事業による「試行錯誤」が必要だ。制度移行に伴って生じるであろう混乱や問題を、参院選前に顕在化させるようなことを小沢氏が容認するとは思えない。
 唯一、制度変更を加速させなくてはならない要因は、決着寸前まで来ていたWTOの農業交渉だ。しかし、新多角的貿易交渉(ドーハラウンド)は最近になって米国と中国の対立が鮮明になり、早期決着の可能性が低下している。
 WTOの「新参者」である中国は、これまでインドやブラジルに比べると声高な発言を控えてきたが、米国が九月十一日に中国製タイヤの緊急輸入制限を決めると、すかさず十三日に米国産鶏肉などについてダンピング(不当廉売)調査すると反撃。ドーハラウンドでも焦点の化学製品の関税引き下げ交渉(途上国は任意参加)に参加しない意向を示した。
「世界経済の運営で中国に応分の負担を求めるなら、応分の発言もする」というのが、現在の中国商務省の基本姿勢だ。
 このためラウンドの妥結目標時期は、九月二十五日に米ピッツバーグで開かれたG20首脳会議の宣言で、「二〇一〇年」という弱い表現にとどまった。国際経済に急変がない限り、民主党にとって「JA潰し」の優先順位は変わらない。
 十月七日、八日に開かれたJA全国大会。例年であれば首相と農水相が出席するが、今回は代理が派遣され、政権との距離を感じさせた。来年夏の参院選への対応も「白紙状態」のまま。JAグループとして「新たな政治状況を踏まえ」、「全ての政党に対して農政運動を展開する」という特別決議を採択し、自民党べったりの姿勢を「軌道修正」するのが精一杯だった。
 JAグループ幹部たちの憂鬱は、これからも続く。
筆者/ジャーナリスト・一ノ口晴人 Ichinokuchi Haruhito
フォーサイト2009年11月号より
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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